歯ブラシの気持ち



作 ・ ぼーずまん




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1. 旅立ち

 俺は歯ブラシだ。名はまだ無い。

 暗闇が支配している紙箱の中でじっと待っている。トラック特有の微妙な揺れが心地よい。

・・・俗に言う「出荷中」というヤツだ。

俺達が再び光を浴びるとき、そこが俺達を扱う「売り場」という事になる。

コンビニか・・・それともドラッグストアか・・・

期待と不安を胸に抱え、俺達は狭い紙箱の中でカタカタと揺れているのだ。


2. 到着のとき

 トラックが止まるたびに後部の扉が開かれ、一箱、また一箱と仲間達が降ろされている。

同じ工場で製造された仲間達は家族のようなものだ。

当たり前の事だが全員が同じ場所で販売される訳は無い。

仲間の旅立ちは、すなわち一生の別れでもある。

残された皆が複雑な感情を抱きながら、扉の再び閉まる音を聞く。

 4回目に扉の開く音が聞こえた後、ついに俺の入っている箱が人間の手によって持ち上げられた。

・・・俺の人生の本当のスタートだ。


3.  売り場にて

 俺の入っていた紙箱には、俺を含めて5本入っていた。

店の従業員の手で5本まとめて売り場の棚にある金属の細い棒にぶら下げられる。

従業員の服装がチラリと見えた。どうやらここはコンビニらしい。

できれば大手のドラッグストアがよかった。

なぜなら、俺達の他にもたくさんの歯ブラシ達がいるからだ。

ちがう工場で生まれた連中とたくさんコミュニケーションをとってみたかった。

コンビニではせいぜい6〜7種類だろう。・・・まぁ、これもまた運命ってヤツだ。


4.  出会い
 
俺は自分の列の一番後ろ・・・すなわち5番手のポジションだった。

もし剣道や柔道の団体戦であれば「大将」というヤツなのかもしれないが、俺達の世界にそんな役職は無い。

ただ、一番長くこの場所にいられるという、ただそれだけの事だった。

そんな事を考えていると、俺のすぐ前の奴が話し掛けてきた。

「俺はダグラスっていうんだ。よろしくな。」

「こちらこそ。俺は・・・名前は決めてないんだ。」
 
こいつとは親友になれる・・・そんな予感がした。


5.  仲間

 俺達は列ごとの仲間意識が強い。

もちろん同じ種類の歯ブラシは同じ工場で作られているというのが主な理由だ。

俺達の列は・・・先頭から、トニー・コジロウ・ジェシカ・ダグラス・・・そして俺の5本編成だ。

このコンビニに卸されてから3日ほど経つと、5本とも打ち解けていた。

だいたい俺達の主な話題は「どんな人間に買われたいか」がメインだ。

歯ブラシは途中で主人が変わる事は絶対に無い。最初に口に入れた人間で歯ブラシの一生は全て決まる。

それが俺達の宿命なんだ・・・


6.  山切りカット

 買い物客の側から見て俺達の右の列は、俗に言う「山切りカット」の連中だった。

現在は3本ぶら下がっている。・・・3番手の奴(俺に一番近い水色の奴)が話し掛けてきた。

「よぉ、新入りたち。お前ら全く売れなそうだなぁ。・・・まぁ、何も特徴の無い普通の歯ブラシじゃあ無理もないか。くっくっく。」

腹が立ったので大人げなく言い返してしまった。

「お前らだって俺達がここに来てから1本も売れていないじゃないか!」


7.  プライド

「先輩に対してその口のきき方はなんだ!」

「まったく生意気な歯ブラシね。」

山切りの前2本もケンカ腰になった。どうやら俺は山切りの連中とはウマが合わないらしい。

一部始終を見ていたダグラスも参加する。

「先輩がた、もう山切りカットの時代は終わったんじゃないんですか?」

「てめぇ、もういっぺん言ってみろ!」

お互いのプライドを賭けた口喧嘩はこうやって始まったのだ。


8.  ジェシカ
 
お互いの悪口を言い合う俺達と山切りカット連中。

5分も経ったころ・・・さすがに見ていられないといった感じでダグラスの前にいたジェシカが口を挟む。

「もういい加減にしなよ。非建設的なケンカは見苦しいわ・・・。お互いに良い所があるんだから、そこを認め合ってもう少し仲良くしたらどう?」

山切り3本は何も言えなくなってしまった。もちろん俺とダグラスもだ。

・・・そんな事があってから俺達はジェシカに一目置くようになったんだ。


9.  突然の別れ 
 
トニーはいつも「かわいい女の子に使ってほしいな・・・。」って言ってた。

その気持ちは俺にもよく分かる。

前にも言ったが、俺達歯ブラシの運命は全て利用者・・・主人次第なのだ。

俺達がここに来て5日目。とうとうトニーが金属棒から引き抜かれた。

俺達は絶句した。

50代半ばだろうか。髪の薄い小太りの脂ぎったオジサンだった。

・・・横では山切りカット連中がニヤニヤと笑いをこらえているのが分かる。

「みんな・・・今までありがとう・・・。」

それがトニーの最後の言葉だった。

10. コジロウという名のサムライ 

コジロウはいつも無口だった。半透明の赤いボディがとてもカッコよかった。

ジェシカはコジロウのすぐ後ろに並べられて幸せだと言っていた。

ジェシカの緑のボディだって素敵だと思う。2本はお似合いのカップルかもしれない。

コジロウはどんな人間に使われても悔いは無い、と言っていた。

ジェシカはそんなコジロウが好きだったみたいだ。

7日目。コジロウの旅立ちの日がきた。彼を手にとったのは太った中年女性だった。

チラリと金歯だらけの歯が見えた。

普段静かで無口だったコジロウは最後の最後に大声で叫んだ。

「ジェシカ!お前に会えてよかった!お前は幸せになれ!・・・先に行く!」

・・・その日はしばらく俺もダグラスもジェシカには何も言葉をかけられなかったんだ。


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