歯ブラシの気持ち



作 ・ ぼーずまん

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111話 ボナパルト 

昨日と同じトーンでツカサの声が聞こえてきた。

たぶん俺はこれから何度もこの「ただいまー」を聞くんだろうな・・・

玄関方面でヨウコさんと何か話している様子だったが、すぐに足音がこっちへ近づいてきた。

洗面所のドアが開く。 開けたのはツカサだ。 彼は照明のスイッチを入れると、すぐに蛇口をひねった。

たしかこれは昨夜、ゴン爺から教えてもらった「手洗い」とかいう習慣だ。

ツカサは汚れた手で帰ってくることが多く、帰宅後すぐに手を洗うときが多いのだそうだ。

そして水でサッと両手を流すと、濡れた手で石鹸を持った。 たしかコイツの名前はボナパルトとかいったかな。

洗面所の俺たち以外の仲間とは夜のうちにほとんど挨拶を済ませていたんだ。

ボナパルトはゴン爺と一緒で、だんだんと痩せていく体質だと言っていた。


112話 別れの思い出 

ただ彼はまだこの洗面所に来て日が浅いらしい。  丸みを帯びたその体はまだかなり大きかった。

ふとゴン爺に目をやる。 ゴン爺は俺たち歯ブラシとちがって家族全員から利用される。

残量を考えると俺たちの誰よりも先にこの場を去らなくてはいけなくなりそうだ。

出会いに別れはつきものだ、って誰かが言ってた気がする。

・・・ダグラスだったかアクリィだったかは覚えてないけど。

俺はコンビニで多くの別れを経験してきた。 連中とは短い付き合いだったけど、今では良い思い出だ。

水の音がやんだ。 ツカサはタオルで両手を拭きあげると、洗面所の照明を消して居間の方に戻っていった。


113話 トントントン・・・ 

さほど間を置かずにマナミも帰ってきた。 手洗いを終えたツカサは2階にあがっている。

キッチンの方からはヨウコさんが料理をしている音が聞こえてくる。

このトントントン・・・というリズムの音は「ホウチョウ」という道具の音なのだそうだ。

マナミとヨウコさんが何か話しているのがわかる。 今日はヒデキさんの帰りは遅くなるらしい。

どうやらヒデキさんの帰宅時間というものは日によって違うらしい。

昨夜の「まっすぐ帰ってくるのは珍しいかな?」という彼のセリフが頭をよぎる。


114話 献立 

さて、夕食の時間が近づいてくると気になるのがメニューだ。

セドリックとメリルがお互いの予想を言い合ってるけど、なんだかまたケンカになりそうな空気でもある。

ジェシカは2人の事など気にならないといった雰囲気だ。人間の言葉で言う「日常茶飯事」ってヤツなんだな。

ちなみにセドリックはカレーライス、メリルは焼き魚だと言う。

キレイに意見が割れたものだ。

「絶対さっきカレーの匂いがしたんだって!」

「魚を焼いてる煙の匂いがしたじゃん!」 ・・・やれやれ。


115話 3人での食卓 

結局、ケンカにはならなかった。

なぜかというと、夕飯は揚げ物だったからだ。 油で揚げる音が聞こえるとメリルたちは黙ってしまった。

人間の食べる物には詳しくないけど、ジェシカが「今日はトンカツかしtらね。」と笑いを堪えて言う。

そのあと、セドリックとメリルが無理に違う話題に変えようとしているのがおもしろかった。

そうこうしているうちに「いただきまーす。」と聞こえてきて3人の食事が始まったんだ。


116話 兄妹 

ツカサとマナミは食事中でもよくしゃべるのが習慣みたいだ。 話し声が聞こえてくる。

ヨウコさんはたまにたしなめる場面があるくらいで、あまり声は聞こえなかった。

そしてヨウコさんが1番最初に食事を終えた。 ツカサとマナミはTVの話で盛り上がっている。

俺には話しの内容はほとんど理解できなかったが、どうやらマナミの好きなドラマに関する話題みたいだ。

好きな俳優がどうの、とか聞こえる。 ツカサはそれに対して何か文句をつけている様子だ。

水の音が遠くに聞こえてきた。 ヨウコさんの洗い物の音だろう。


117話 居間の着信音 

突然、聞き慣れない音が彼らの方から聞こえてきた。

「これはマナミのケータイだな。」 セドリックがつぶやいた。


118話 マナミとケータイ 

少しだけ足音が近づいた。 洗面所のすぐ外にマナミがいるのがわかる。

「・・・うん、大丈夫! 今日はホントびっくりしたよー。 うんうん・・・」

やはり相手は学校の友人なのだろうか。 話し声がこっちまで聞こえてきた。

昨夜もそうだったが、マナミはケータイでしゃべるときは周りに誰もいない洗面所の付近を利用するらしい。

兄のツカサにもあまり聞かれたくない会話が多いのかな?

どうやら今回の電話の内容もマナミの恋愛に関する話のようだ。



119話 嬉しそうな声 

「そうそう、ちょっとさぁ、今日エンドウ先輩がね・・・!」

心なしかマナミの声が嬉しそうなトーンなのに気がついた。

ドアの向こうで赤いケータイを耳に当てている笑顔のマナミが見えるようだ。

「でしょ〜? なんかすごくない? 運命っていうかさぁー・・・」

電話はなかなか終わりそうにない。 昨日は確か15分くらいだったかな。

階段の足音が聞こえてきた。 いつの間にかツカサは食事を終えている。


120話 やはり長電話 

「・・・そしたらユカとマヤもビックリしちゃってさぁ!一番ビックリしたのは私なんだけどー・・・」

マナミはまだ話し続けている。 キッチンの水と食器の音が止まった。

「自分の分は自分で洗ってね!」 ヨウコさんがマナミに言った。

「はーい! ・・・あ、ごめんね。それでさー・・・」

だんだんと声が遠くなる。 ケータイを持ったまま居間の方に移動したらしい。

「なんかイイコトあったみたいね♪」 メリルが興味津々だ。


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