歯ブラシの気持ち



作 ・ ぼーずまん

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21話 永遠の強敵(ライバル) 前編 

俺たちがこのコンビニに出荷されて1ヶ月。

いろんな事があった。 出会い・・・別れ・・・

そして今日の「別れ」は自分にとって特別なものだったんだ。

夕方。若い男が俺たちの方をジッと見ている。緊張が走る。

どうしても先日の万引き事件が頭をよぎる。

男が手にとったのは・・・

「・・・ヤマさん・・・!」


22話 永遠の強敵(ライバル) 後編 

ヤマさんが言った。

「ふん。お前らと離れられると思うと嬉しくてしかたないぜ。」

ダグラスが言い返す。

「こっちだって・・・。」

そこから先は言葉にならなかった。この2人はなんだかんだで仲が良かったのだ。

「じゃあな。もう会うことも無いと思うが・・・まぁ、元気でやれよ。」

「・・・アンタもな。」

・・・こうして俺たちの強敵(ライバル)はここを去っていったんだ。



23話 博識なヤツ  

万引き事件以降、例の3色ハミガキ粉がよく俺たちに話かけるようになった。

コイツは、俺もダグラスもびっくりするくらいにいろんな事を知っていた。

どうやらとても耳が良いらしく、店内の人間たちの会話がよく聞こえてくるんだそうだ。

客同士。従業員同士。 ・・・いろんな会話を聞いてるうちに物知りになってしまったらしい。

特に、客が誰もいないときのアルバイトたちの会話はとてもおもしろいと言っていた。

そういえば・・・俺は全く人間の話なんて気にしていなかった。

そのハミガキ粉は名を「アクリィ」と言った。

その日、アクリィは俺たちにおもしろい事を教えてくれたんだ。


24話 アクリィの情報 

「ねぇねぇ、知ってる?」 アクリィが言う

「え?何を?」 ダグラスが訊き返す。

「もうすぐこのコンビニ潰れちゃうかもしれないのよ。」

なんだって・・・!? どういうことだ?

「え!・・・ちょっ、ちょっと詳しく教えてくれよ!」

「どうも立地がイマイチみたいで、あまり儲かってないらしいのよね。ここ。」

「コンビニって潰れるのか?」 俺も会話に参加する。

「潰れるわよ。本部の直営ならまだしも、ここは個人オーナーだからね。」

「そういうものなのか・・・。」

「ちがう商売を始めた方が儲かるかもしれない・・・ってオーナー夫婦がこないだ話してたわ。」


25話 不安 


「もし店が潰れたら、俺たちはどうなるんだ?」

そう、一番心配なのはそこだ。 アクリィは冷静な声で返してきた。

「さぁ・・・。どうしても処分できなかった在庫はどうなってしまうのかしらね。」

一度、梱包から開封された商品を中継地点である流通センターに戻すことはまず考えられなかった。

だとすると・・・まさか、廃棄・・・!?

「まぁ、オーナーサイドの買い取りが無難な線ね。」

俺たちに賞味期限は無い。最悪の事態はまぬがれそうだ。


26話 焦燥 


「いや・・・わからないッスよ。」

俺たちの隣の隣・・・毛先の形が妙な奴が話し掛けてきた。

「もしほとんど売れ残ったらどうします?こんなにたくさん必要は無いですから。」

確かにそれもそうだ。

「引き取ったのはいいけど、そのまま靴磨き用やトイレの細かい所専用ブラシにされたりでもしたら・・・。」

最悪だ。 俺たちは人間の歯を磨くために生まれてきたんだ。

ましてや便器専用なんて・・・ まだ廃棄処分の方がマシってもんだ。


27話 ポジティブ 


「・・・何が起きてもそれを運命として受け止めましょう。」

アクリィが言う。ダグラスも明るい声で続いた。

「そうだな。俺たちがバタバタしたところで何も運命は変わらないさ。」

「その前に俺たちはバタバタもできないけどな。」

周辺に笑い声が起きる。そう、これでいいんだ。

所詮、俺たちは人間に運命の全てを握られている歯ブラシにすぎないのさ。



28話 糸ようじ  


もうすぐ1ヶ月半になる。

俺たちは「生まれ変わったら何になりたいか」で盛り上がっていた。

「私は・・・人間かしら。なんか楽しそうだしね。」 アクリィが言う。

「僕はみんなみたいな歯ブラシになりたいよ。」下の段から糸ようじが言った。

「あんまり歯ブラシってのもいいもんじゃないぜ?」 と俺。

「でも僕らは一度使ったら、それで終わり。あっという間に一生の労働を終えるんだ。」

それもそうだ。糸ようじに比べたら俺たちはなんて恵まれているのだろう。


29話 雨 


雨の日だった。 

ここからじゃ外の様子はわからないけど、前を通る客の靴やズボンが濡れていたりするので何となく天気はわかる。

店内にはBGMが常に流れているので、雨音も聞こえない。

一人の女性が目の前に立った。20代だろうか・・・まだ若い。

彼女は俺たちや山切りの列、そして毛先が丸い連中の列をジロジロと見る。

力強くて大きな瞳だ。 数秒の沈黙。

そして・・・

白くて細い指がダグラスに触れたんだ。


30話 贈り物 


ダグラスは言った。

「やっと俺の順番か・・・いろいろあったなぁ。」

「万引きされかけたしな。」 俺はあえて明るく振舞った。

「ははは・・・どうやら今回は本当の主人らしい。」

「ダグラス・・・また会おう。」

「あ、最後に!・・・俺、お前に名前をつけてやりたいんだ!俺からのプレゼントだよ!」

指がダグラスを金属棒から引き抜いた。もし俺が人間だったら、今ごろ涙で何も見えなかったのだろう。

「そうだな・・・お前の名前は・・・」





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