ハリー堀田と
    ケンちゃんの石

                                   文 ・ 画 ぼーずまん



             

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  第10回  〜 7時間経過 〜


 【現在AM2:05】

肉とプリンを主食としている巨漢の胃袋はすでに空っぽになっていた。

・・・時計の針はすでに夜中の2時を指している。

「なぁ、ハリー・・・。」

「あん?どうした?」

「その・・・オナカが・・・。」

「腹も痛むのか?」

「いや・・・すいた。ぺこぺこで・・・意識が朦朧と・・・。」

この家の冷蔵庫の中に入っていた肉は全てハリーの胃袋へと消えてしまった。

大量に残されているプリンは、もはや核よりも恐ろしい脅威であることに違いない。

ハリーは友人の言葉を聞こえなかった事にして治療の手段を考えていた。

「なぁ・・・ハリー・・・。」

「・・・。」

沈黙が訪れた。

開けっ放しになっている窓からは遠くを走る車の音がたまに聞こえるだけで、周りの全ての世界から隔離されたような静寂が2人を包んでいる。

一定のリズムを刻む時計の秒針だけが「音」として部屋の中に存在していた。

「・・・うっ!」

「どうした!?ケンちゃん!?」

脂ぎった巨漢の額に再び汗がにじみ出てくる。

「急にオシッコがしたくなったと思ったら・・・また・・・激痛が・・・!」

「なんだって!?」

「痛い・・・痛いよォ・・・ハリー・・・。」

・・・ハリーは覚悟を決めた。

たぶんこの友人は助からない・・・治す手段も思いつかなければ、何の病気かも分からない。

今回の激痛は・・・峠というモノなのだろう。

その時、部屋の片隅に無造作に置かれていた黒電話が深夜の静寂を乱暴に引き裂いた。

「・・・死神のお迎えかもな。」

自嘲気味に皮肉めいた言葉を吐き捨て、ハリーは涙をボロボロとこぼす友人をまたいで受話器を取った。

「もしもし?」

『あれ?間違えたかな?』

「いえ・・・その声はケンちゃんの父上ですね?」

『おお!その声は堀田さんちのせがれじゃないか!久しぶりだなぁ!』

電話の声の主はひときわ甲高い耳障りな声をあげる。

『そこにケンちゃんいるか?代わってほしいんだけどさ!』

「ちょっと・・・本人はとてもまともにしゃべれる状態じゃないので・・・俺でよければ。」

『ん?しゃべれる状態じゃない?何かあったのか?』

ハリーはケンちゃんの父に今夜起きた全ての出来事を話した。

風俗に行きたかったけどお金がなかった事・・・冷蔵庫のプリンが腐っていた事・・・ついでにケンちゃんの股間の異常も・・・

『ああ!それなら俺もなった事あるぞ!ズバリ尿道結石だな!』

受話器の向こうの初老の男はよりいっそう明るい声になった。

「にょ、尿道結石だって・・・!?」

メガネのレンズの奥に潜むビー玉のように小さな瞳がカッと見開いた。

痛みをこらえながら横たわる巨漢はあまりの大きな声に驚き、言葉にならない言葉をモゴモゴとつぶやきながら失禁してしまった。


                つづく


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