ハリー堀田と ケンちゃんの石 |
文 ・ 画 ぼーずまん
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第13回 〜 10時間経過 〜
「ふみえ・・・ふみえ・・・なんでこんな事に・・・。」 心配そうに見つめるハリー。 その横では脂ぎった巨体が近代オブジェのように横たわっている。 ハリーの意識において、もはやその巨体への感心はゼロになっていた。 今はそんな事よりも愛しいハトの蘇生が最優先である。 手は尽くした。 無理やり水も飲ませたし、曲がっていた羽も直してあげた。 またいつものようにつぶらな瞳で微笑んでくれよ、と願いを込めて精一杯の治療を施した。 ふみえは微笑むどころか恨みのこもった攻撃的な視線をハリーに返すだけで、飛ぶどころか歩くのもままならない状態である。 ・・・ハリーが彼と出会ったのは数ヶ月前である。 当時、遠く離れた街の片隅で道往く人達に手品を見せていたハリー。 あまりにもつまらない手品の連続だったため、わざわざ足を止める人間はゼロであった。 もちろん目の前に置かれた空き缶の中にはお金は入っていない。 彼の空腹は限界を超えていた。 そんな彼の目の前に1羽のハトが飛んできたのである。 ・・・うまそうだなぁ。 そうハリーが思ったのは言うまでもない。 彼は持っていたシルクハットの中からボロボロになったドライフラワーをかなぐり捨て、それを虫取り網の要領で振り回した。 限界を超えた人間というのは時としてとんでもない集中力を発揮するものである。 サバンナの肉食獣のような鋭敏な動きで近づき、危機を察知して飛び立とうとしていたハトを一瞬で捕まえてしまったのだ。 哀れ、捉えられたハトは手品用の火炎放射器(100円ライターを改造したヤツ)によって焼き鳥になってしまった。 こうして餓死寸前のハリーは生き延びたのだ。 ・・・この話には続きがある。 実はこのハトはメスで、しかもつがいであった。 突然姿を消してしまった相方を心配して、オスのハトがハリーの目の前に飛んできた。 キョロキョロと首を動かしながら周囲をうかがうオスのハト。 その彼の目に飛び込んできたのは、無残な姿になった相方の姿である。 そして…そのかたわらには黒ブチのメガネを掛けた悪魔が立っていた。 ハトがその存在に気付くのと、シルクハットの暗闇に捕らえられるのはほぼ同時であった。 とりあえず満腹になったハリーはこのオスのハトを非常食として飼う事にした。 それがこの“ふみえ”である。 人間とは不思議なもので、しばらく寝食を供にしているうちに妙な愛情のような何かが芽生えてくるものだ。 ハリーはいつしかふみえを恋人のように愛するようになっていた。 名前が付けられたのもその時期である。 ふみえの足には常に糸が結んであり、ハリーから逃げ出せないようになっていた。 こうして歪んだ愛情を受け、時には手品のタネとして使われる日々が続いて今に至るのである。 「ふみえ!…がんばれ、ふみえ!」 ようやく意識が戻ってきたふみえは、促されるまま鋭利なくちばしをケンちゃんの股間に近づけた。 時計の針はまもなく5時になろうとしていた。 つづく |