ハリー堀田と ケンちゃんの石 |
文 ・ 画 ぼーずまん
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第14回 〜 11時間経過 〜
もちろん昼間とは違う、どこか透明感のある明るさである。 ケンちゃんが断末魔の叫び声をあげてからすでに1時間が経過していた。 時計の針はちょうど6時を指している。 「ええ…ホント、すんません。はい…はい…分かりました。申し訳ありません。」 最後の1人に謝罪を済ませ、ハリーはようやくドアを閉める事ができた。 あまりにもケンちゃんの叫び声が大きすぎたために同じアパートの住人、近隣の住人が一斉に押しかけてきたのだ。 「ふぅ…。たくっ、何で俺が頭を下げないといけないんだ…こんなに頑張ってるのに…」 ハリーはメガネを指で直すと、ぶつぶつと独り言をつぶやきながら部屋の片隅に目をやった。 そこには近所迷惑の張本人である巨大なオブジェが意識を失って転がっている。 「くそっ…こんなヤツのために…」 そのつぶやきを窓から入ってくる朝の涼しい空気が優しく掻き消す。 結局のところ、ケンちゃんの尿道結石は取れることはなく…彼の粗末な宝物に激痛を与え続けている。 ふみえが、その鋭利なくちばしを宝物に突き立てた瞬間、ケンちゃんはこの世のものとは思えぬ叫び声と共に飛び起きたのだ。 早朝5時…まだ安らかな眠りに落ちていた近隣の人間を一斉に叩き起こすには、十分すぎる大声である。 「はぁ…」 ハリーは横たわるオブジェの柔らかい腹肉を不機嫌そうに蹴っ飛ばすと、あぐらをかいて煙草に火をつけた。 無造作に床に放り投げられた100円ライターが恨めしそうに蛍光灯の光を反射している。 ゆっくりと天井に向かって昇っていく白い煙。 窓から差し込む朝日が僅かばかり明るくなったように感じる。 ハリーは眉間にシワを寄せながらケンちゃんの寝顔を見た。 「…幸せそうに気ぃ失ってらぁ。」 量が多いだけでなく、かなり長めのまつ毛が涙のような汗のような液体で濡れている。 そこにあるつぶらな2つの瞳が、パチリ、と開いた。 「け、ケンちゃん?」 「あれぇ!?…ハリー?…チャーハンは?」 寝ぼけた口調でケンちゃんは口元のよだれを拭った。 「…痛みはどうだ?」 心配そうにケンちゃんの顔を覗き込むハリー。 ケンちゃんは目をぱちくりさせている。 「あれ?チャーハンは?…ねぇ、チャーハンは?どこいったの?チャーハン…」 いろいろな体液でビショ濡れになっている巨体がゆっくりと立ち上がった。 「…おなか…すいた…」 タタミ半畳分くらいを占拠していた肥大した腹肉が上に持ち上がる。 その下から姿を現したのは… 「ふ…ふみえぇぇぇぇ!」 無残な姿になった1羽の鳩が力無く羽を動かした。 「ねぇ…チャーハン…は…?」 すっかり朝の色に染められたアパートの部屋… そこにはケンちゃんのつぶやきと、ハリーの嗚咽が静かに響いていた。 つづく |