ハリー堀田と ケンちゃんの石 |
文 ・ 画 ぼーずまん
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第2回 〜 ケンちゃん、発症 〜
1人の男がトボトボと歩いている。 「いいコいますよ!社長!どうですか?」 呼び込み風の若い男が彼に声を掛けるが、大きな黒ブチ眼鏡の奥にある2つの小さな瞳は虚ろにコンクリートの地面だけを向いていた。 全国を旅している眼鏡の男は月に1回、必ずこの町に帰ってくる。 疲れきった足取りは毎回の事だ。 眼鏡のレンズには色とりどりのネオンが反射している。 呼び込みの男は諦め、あきらかにやる気の無い表情で定位置に戻った。 眼鏡の男は一定のペースで目的地を目指して歩いていた。 生ぬるい風がボサボサに伸びた、妙な天然パーマを揺らす。 ・・・ピンク色のネオンが彼を誘惑する。 男はポケットの中に右手を入れ、中に入っている小銭を指で弄んだ。 硬貨の音が悲しく切ないメロディーとなり、夜の繁華街に掻き消される。 「はぁ・・・つまんねぇなぁ・・・。」 深い溜め息と共に、彼の足取りは町の外れへと向かっていた。 住宅街に差し掛かると、すっかり町の表情は変わっている。 男の足は1件の木造アパートの前で止まった。 「一茶井荘」と書かれた薄汚い表札が街頭の明かりに照らされている。 男は玄関である引き戸を開けた。 カラカラカラ・・・という乾いた音が夜の深い闇に溶けていく。 一歩、中へ踏み込んだその時であった。 「・・・痛ぇぇぇ!」 なんとも情けない叫び声が静かな住宅街を切り裂いた。 声の発信源は1階の1番奥の部屋のようだ。 眼鏡の男はこの声に聞き覚えがあった。 彼は小走りにその部屋の木製の引き戸に手を掛け、勢いよく開けた。 「どうした?・・・おい、ケンちゃん!」 「ハリー!?・・・俺は・・・ここだ・・・うっ!」 ハリーと呼ばれた眼鏡の男の視界に声の主はいなかった。 「ケンちゃん・・・!」 ハリーは部屋に入ってすぐ右手にある木製のドアを手前に引いた。 そこには前髪の揃えられた丸い体格の男・・・ケンちゃんがうずくまっていた。 「ハ・・・ハリー・・・俺、もう死ぬかもしれない・・・。」 ケンちゃんの額には脂汗が滴っていた。 その表面はトイレの薄明るい裸電球の光を反射して、日本刀の刃のような妖艶な光を放っている。 |