ハリー堀田と
    ケンちゃんの石

                                   文 ・ 画 ぼーずまん



             

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  第2回  〜 ケンちゃん、発症 〜


 【現在PM7:05】

夜のネオン街。

1人の男がトボトボと歩いている。

「いいコいますよ!社長!どうですか?」

呼び込み風の若い男が彼に声を掛けるが、大きな黒ブチ眼鏡の奥にある2つの小さな瞳は虚ろにコンクリートの地面だけを向いていた。

全国を旅している眼鏡の男は月に1回、必ずこの町に帰ってくる。

疲れきった足取りは毎回の事だ。

眼鏡のレンズには色とりどりのネオンが反射している。

呼び込みの男は諦め、あきらかにやる気の無い表情で定位置に戻った。

眼鏡の男は一定のペースで目的地を目指して歩いていた。

生ぬるい風がボサボサに伸びた、妙な天然パーマを揺らす。

・・・ピンク色のネオンが彼を誘惑する。

男はポケットの中に右手を入れ、中に入っている小銭を指で弄んだ。

硬貨の音が悲しく切ないメロディーとなり、夜の繁華街に掻き消される。

「はぁ・・・つまんねぇなぁ・・・。」

深い溜め息と共に、彼の足取りは町の外れへと向かっていた。

住宅街に差し掛かると、すっかり町の表情は変わっている。

男の足は1件の木造アパートの前で止まった。

「一茶井荘」と書かれた薄汚い表札が街頭の明かりに照らされている。

男は玄関である引き戸を開けた。

カラカラカラ・・・という乾いた音が夜の深い闇に溶けていく。

一歩、中へ踏み込んだその時であった。

「・・・痛ぇぇぇ!」

なんとも情けない叫び声が静かな住宅街を切り裂いた。

声の発信源は1階の1番奥の部屋のようだ。

眼鏡の男はこの声に聞き覚えがあった。

彼は小走りにその部屋の木製の引き戸に手を掛け、勢いよく開けた。

「どうした?・・・おい、ケンちゃん!」

「ハリー!?・・・俺は・・・ここだ・・・うっ!」

ハリーと呼ばれた眼鏡の男の視界に声の主はいなかった。

「ケンちゃん・・・!」

ハリーは部屋に入ってすぐ右手にある木製のドアを手前に引いた。

そこには前髪の揃えられた丸い体格の男・・・ケンちゃんがうずくまっていた。

「ハ・・・ハリー・・・俺、もう死ぬかもしれない・・・。」

ケンちゃんの額には脂汗が滴っていた。

その表面はトイレの薄明るい裸電球の光を反射して、日本刀の刃のような妖艶な光を放っている。

                つづく

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