第6回 〜 3時間経過 〜
【現在PM10:00】】
ハリーとケンちゃんの付き合いはもう長い。
2人の間に築かれている信頼関係は絶対なのである。
「・・・ハリー・・・もう痛みが限界だよ・・・。」
「大丈夫。両腕さえ抜ければこっちのもんだ。何も心配するな。」
梅雨時の粘着質な空気がハリーに絡み付いている。
彼の全身は汗でズブ濡れであった。
「・・・ちょっと待ってろ。」
そう言うと、彼はおもむろに懐から1枚の赤いハンカチを取り出した。
「ハリー・・・。」
ゴクリ、と生ツバを飲み込みながら心配そうな表情で見守るケンちゃん。
ハリーはそのハンカチで顔の汗を拭いた。
それから首周り・・・胸元と汗を拭きあげる。
「ふぅ・・・あれ?・・・あ。」
それだけ言うと彼は再びハンカチをしまい、天井を見上げた。
ホコリが所々に目立つ天井の板には、先ほどケンちゃんが数えていた染みがいくつも点在している。
ハリーも無意識のうちにその染みを数えそうになったが、何かが彼を制した。
ケンちゃんからは彼の表情がわからない。
その深い闇の中に手を入れるのは非常に危険だ。
男の本能なのか・・・それとも動物の本能なのか。
ただ、今のハリーに話し掛けてはいけないという事は瞬時に理解できたのだ。
激痛の中・・・ケンちゃんの中に眠っていた本能は逆に鋭敏になっている。
ふぅ、と軽い溜め息をついてハリーは再びケンちゃんの方に向き直った。
「さぁ、ショータイムの始まりだ!」
メガネのレンズがキラリと光る。
時計の針はすでに10時になろうとしていた。
ケンちゃんの目覚めた本能に呼応したのだろうか・・・ハリーの本能も解放されようとしていた。
狭い6畳の室内に鈍い音が響く。
ハリーは夕飯どころか昼飯も食べていない事に気が付いた。
彼は中指だけでメガネを直すと、失神しかけている友人をまたいで冷蔵庫の前に立った。
つづく
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