ハリー堀田と ケンちゃんの石 |
文 ・ 画 ぼーずまん
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第7回 〜 4時間経過 〜 【現在PM11:04】 ハリーは手品以外にも得意としているものがいくつかある。 そのうちの1つが料理だ。 彼は自分の前に並べられた数枚の皿を重ねると、キッチンのシンクに乱暴に置いた。 皿同士がぶつかる硬質な音が室内に響き渡る。 彼は溜め息をつきながら元の場所に戻ると、折れ曲がったタバコに火をつけた。 ゆるやかな白煙に目を細めながら、彼は今日のアート(彼は料理の事をアートと呼ぶ)を振り返った。 ・・・計算外な事が多すぎた。 まず、冷蔵庫を開けた瞬間に最初のハプニングが待っていたのである。 肉、肉、肉・・・中身の大半が肉であった。 ・・・野菜が見えない。 これほどまでに偏った食生活を送っている人間も珍しい。 肉のほかに目に付くものといえば、数個のプリンしかない。 ハリーは手前の方に無造作に積まれた牛肉のカタマリを掴むと、ビニールを破いて匂いを嗅いだ。 ・・・大丈夫、いける。 彼はこの冷蔵庫の持ち主の性格を知り尽くしている。 ズバリ、ずぼらを絵に描いたような男だ。 たまに食材を腐ったまま放置する事も知っている。 しかし、今ハリーの手に握られている生肉はまだ購入後3日といった所だ。 ・・・ここまでは良かった。 彼は片っ端から中身を引き出した。 鶏肉・豚肉・牛肉・プリン・・・そしていくつかの調味料。 メガネのレンズが冷蔵庫内の照明を反射してキラリと光る。 彼はカットされた牛肉を選んだ。 ところがここでもまた悲劇が彼を襲う。 ・・・フライパンも鍋も無い。 彼はガスコンロの火をつけ、箸で肉を1枚1枚丁寧に炙っていった。 決して衛生的とはいえない皿に乱暴に盛っていく。 そこで彼が手に取ったのは塩とコショウ・・・ではなくプリンである。 フタを開け、箸で中身を強引にかき混ぜる。 カラメルソースがまんべんなく混ざり、茶色っぽくなったプリンを盛られた肉の上に・・・ 誰も思いつかないようなアートがそこにあった。 彼は肉とプリンを口に放りながら部屋の明かりを見上げた。 そして、美味しいモノと美味しいモノを足したら2倍美味しい、という方程式が間違っている事に気が付いた。 しかし空腹の限界だった彼にとって数ヶ月ぶりの肉は至福でもあった。 そして現在、完食後の一服というワケである。 吸殻が溢れそうな灰皿で火を揉み消した時、彼は下腹部に違和感を覚えた。 警戒するべきだったのは肉ではなく・・・プリンだったのだ。 己の詰めの甘さを悔やみながらもハリーはよろよろと立ち上がった。 そして、通路を塞ぐようにうごめいている巨大な障害物をまたぐと、ゆっくりとトイレのドアを開けた。 ハリーの戦いが始まった・・・ つづく |