ハリー堀田と ケンちゃんの石 |
文 ・ 画 ぼーずまん
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第9回 〜 6時間経過 〜
ようやく涙で滲んでいたケンちゃんの視界がクリアになっていく。 灼熱の湿気が充満している個室にハリーが消えて2時間になろうとしている。 ゆっくりと開いていくケンちゃんの瞳に映った光景は・・・まさに奇跡であった。 「よォ・・・何をそんなに驚いてるんだ?まるで死人でも見たような顔になってるぜ?」 「・・・ハリー・・・どうして・・・ここに・・・?」 「おいおい、俺の職業を忘れちまったのか?言ってみろ、コラ。」 サディスティックな光をレンズの奥の瞳に宿らせた親友がそこに立っていた。 「手品師・・・スゴ腕の手品師だよ・・・!」 手品師は涙混じりの返答を聞いて一時の愉悦に浸り、歪んだ口元はわずかにつり上がる。 「奇跡ってのはなァ、起こすためにあるもんだ。・・・そして奇跡は必ず起きる!」 「かっこいい・・・かっこいいよハリー・・・かっこいいよ・・・。」 ハリーは軽く溜め息をつくと、ドアの前で動けなくなっているケンちゃんの腕をつかんだ。 「動けるか・・・?」 「今度は俺が奇跡を起こす番・・・かな?」 「カッコイイぜ、ケンちゃん。」 バターを顔面に塗りたくったようなスマイルを浮かべ、ようやくケンちゃんは立ち上がった。 彼の座っていた場所にはまるで琵琶湖のような巨大な染みができている。 「ハリー、どうやって脱出できたの?さっき玄関から戻ってきたんだよね?」 「それは秘密さ。手品師からタネを聞くのはヤボってもんだぜ。」 「いっつも秘密、秘密って・・・もう。」 ハリーは再びサディスティックな笑顔を見せると、ケンちゃんの巨体を煎餅布団の上に寝かせた。 「痛みはどうだ?」 「さっきよりは大丈夫。まだ先っぽのほうがジンジンするけど。」 開けっ放しの窓から梅雨特有の生ぬるい風が入ってきた。 その風は部屋を抜け、2人の前髪を微かに揺らし、板張りの廊下を撫でた。 そのままトイレのドアの細い隙間を通り・・・全開に開け放たれたトイレの窓から抜けていった。 つづく |